2013年、ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」ですが、現代の日本では、手間をかけて作る伝統的な和食文化を親しむ習慣は年々薄れて来ているのではないでしょうか。

もはや、お正月、または料亭や旅館に訪れた時のみ、和食を口にするという若い世代が思いの外に多いのかもしれません。一方、欧米では、この「和食」というのが健康食品として人気を得ています。「マクロビオティック」という食生活も和食と深いつながりですね。故に、各国のオーガニックやナチュラルスーパーマーケットへ足を運ぶと、必ず日本の食材を置いてあるコーナーに遭遇します。

ロンドンのオーガニックスーパーマーケット「Planet Organic」

ロンドン市内に7店舗あるPlanet Organic(プラネットオーガニック)は、オーガニック・ナチュラル・ヘルスコンシャスの若者に大人気のショップです。

こちらの棚ではClearspring(クリアスプリング)社の日本食材を中心に並べられています。

Clearsprings社のホームページによると、同社は現在日本の生産者40社と取引をし、味噌、インスタント味噌汁、焼き海苔、わかめ、緑茶、ほうじ茶、切り干し大根、しいたけ、豆腐、うどん、そば、せんべいなど幅広く日本の食材を販売しています。中にはオーガニック認証を得ている商品もあります。

イタリアのオーガニックスーパーマーケット「Natura Si」

イタリアで250店舗以上展開しているNaturaSi(ナチュラシ)、こちらはミラノ市内の店舗です。Naturasiでも、日本食材のコーナーを設けています。


味噌、納豆、梅干しという日本食に欠かせないものから、La Finestra sul Cielo(ラ フィネストラ スル チェロ)社の乾燥した蓮根やごぼう、パウダー状のシソ、にがり、甘酒など珍しい商品ラインナップもありました。すべてがオーガニック認証取得済みということではありませんが、陰と陽を意味するインヤンのマークがついており、マクロビオティックという商品カテゴリーでこれらの日本食材を販売していることが分かります。

何故、日本の食材の市場が広がっているか?  

寿司のおかげで日本食が身近に!  

1つの理由として、寿司が身近になり、和食に興味を持つ欧米人が増えています。筆者はロンドンに在住していますが、ロンドン市内の和食レストランのほとんどは日本人以外が経営しています。それほど、日本食レストランの需要が高いということ。そして、寿司が人気なので、どこのスーパーマーケットでもサンドイッチの隣に寿司ロールを置いているところがほとんどです。また、50店舗ほどあるチェーンテイクアウェイ寿司ショップ、70店舗ほどある回転寿司のスタイルのチェーン寿司レストランなどがありますが、どこも欧米人に大人気です。この寿司に付随して、寿司のサイドメニューになっているエダマメ、味噌汁なども認識されています。そして、寿司に欠かせない醤油は、CMも放映される程、ほぼどのスーパーマーケットでも売られている現状です。

フリーフロムが人気!

「フリーフロム」とは何?と思う方もいらっしゃるかもしれません。フリーフロムとは、アレルギー、また消化不良で腹痛を引き起こしたりする可能性のある食品が使用されていないということです。例えば、小麦粉・ライ麦などを使用しない「グルテンフリー」、チーズなどの乳製品を使用しない「デイリーフリー」がフリーフロムに当たります。小麦粉や乳製品は、伝統的な和食には使用されていませんね。

実際、2017年のイギリスのフリーフロム食品市場は、2016年に比べ40%以上の2億3千ポンド(日本円=3億5千万円)も伸びているということです。
(出典:The Grocer

グルテンフリーを好む人は、グルテンフリーのパスタ、パンなどを選ぶこともできますが、比較的種類が限られていたり、価格が手頃ではないこともあり、米、ライスヌードルの需要も増えているように感じます。そして、「そば」や「しらたき」を小麦粉を使用したパスタの代用にする人もいるようで、グルテンフリーコーナーにこれらが置かれていることもあります。また、日本ではあまり目にしない「エダマメヌードル」もヨーロッパの食品メーカー数社から販売されています。

ベジタリアン・ビーガンにとって豆腐は必須!

ビーガンの発祥地と言われるイギリスでは、レストランやテイクアウェイショップで、ベジタリアン、ビーガンメニューが必須です。動物性食材を使用していないことをひと目で把握するために、メニューに「V」というマークが付いています。

ご存知のように、野菜からもタンパク質は摂取できますが、肉や魚の代用として用いられる食材が豆類ですね。

最近は、フルーツや野菜、脂質の少ないタンパク質などの自然食品を中心に摂取するクリーンダイエットも流行っているのが理由なのか、イギリスのスーパー第二位のSainsbury’s(セインズベリーズ)は、この一年でレンズ豆の売上が18%増加、ひよこ豆の売上が14%増加、キドニービーンズやブラックビーンズなどの缶に入った豆類は39%売上が伸びていると述べています。(出典:The Guardian

これらの缶や瓶に入った豆食材をあまりアジア料理で使わない為、和食、中華、韓国、タイなどのアジア系料理を提供するレストランやテイクアウェイショップでは、ベジタリアン食材として、豆腐が重宝されています。

最近は、どこのスーパーマーケットでも豆腐を置いているように感じたので調べてみたところ、2010年より、毎年ベストオンラインスーパーマーケットとして選ばれているイギリスのOcado(オカド)では純粋な豆腐や豆腐を加工している商品ブランドが9つありました。

どれも、日本食メーカーが作った商品を輸入している訳ではなく、すべてヨーロッパのメーカーが作っているのです。それほど豆類全般の食品に注目が高まっているようですね。

このようなヘルスコンシャスな食生活は、セレブリティを含む著名人が動物保護の観点から、ベジタリアン、ビーガンと主張している人もいるので、ファッション性のような一時的トレンドがこれらの市場を支えている可能性も考えられるでしょう。しかしながら、このように各カテゴリーで少しずつ日本の食材が注目されると、オーガニック、ナチュラルスーパーマーケットのみならず、一般的なスーパーマーケットの棚でも日本の食材が次々に大きく展開され始めてくるのではないでしょうか。

和食離れなどを背景に、日本国内シェア全体が伸び悩んでいると苦痛を味わっている生産者やメーカーもいると思います。

外務省調べによると、2006年から約10年で海外の日本食レストラン数は5倍と急増しているそうです。また、農林水産省では2020年までに輸出を一兆円にすると目標を掲げているということです。今後も拡大傾向にある日本食材の海外市場に、「ベジタリアン」「フリーフロム」「オーガニック」「マクロビオティック」という切り口で、目を向けてみませんか?

この記事を書いた人

鈴木 聖佳(すずき さとか)

約8年間、東京にて化粧品業界商社兼メーカーに勤務、Eコマース、カタログ通信販売のマーケティング&法人営業に従事。2012年よりロンドンへ移住し、3年弱、金融業界で勤務。そして、日本と「繋げる」・日本に「伝える」を仕事にし、現在は、ネゴシエーター・フリーランスライターとして活動中。特にオーガニック・ナチュラルプロダクトの食品・化粧品に関するマーケットリサーチ、インサイドセールス、ライティングをプロジェクトベースで行っています。

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