1984年当時、5,500名もの従業員を抱えるヨーロッパ最大の肉加工会社「HERTA」を経営していた Karl Ludwig Schweisfurth(カール・ルードヴィヒ・シュヴァイスフルト)氏は、エネルギーの多消費、そして保存料や添加物を前提の大量生産、大量流通という今までのビジネススタイルに対して疑問を持ち、会社をNestléへと売却。その売却益をもとに1987年ミュンヘン近郊の町Glonn(グロン)に農地を購入したのがヘルマンズドルファー「Herrmannsdorfer Landwerkstätten」の始まり。

この地域に10ha規模の農家が多かったことから、同規模の圃場を確保しテスト農場を設け、まずは無農薬で作物を育てるところから。牛や豚などは倫理的価値観(アニマルウェルフェア)に基づき育てられ、美味しくて健康価値を持つ食品の生産と流通を目指したという。生産、加工、流通を一貫して行うための施設やシステムづくり、周辺の農家にノウハウを提供するなど地域ぐるみのプログラム構築に力を注いだ、地産地消、六次産業化の先駆けだ。

現在は従業員およそ200名を雇用し、牛や豚の飼育場や放牧地、耕作地、と殺場、ソーセージ工房、さらにはオーガニックパン工房、チーズ工房、ビール工房、レストラン、ショップなども併設。バイオガスの発電施設や、従業員のための宿舎や保育施設までが備わっている。

この農場では牛や豚など、絶滅しそうな種の保存や繁殖に努めている。敷地内には、豚舎や牛舎、鶏舎などがあり、広々としたスペースが与えられ育てられている様子が間近で見て、感じることができる。

例えば養豚は、一般的には生まれてから市場に出されるまで4か月程度なのが、ここでは10~11ヶ月間という約2倍の時間をかけ飼育されるそう。また、オーガニックの飼料を与える、スペースを確保するなどのオーガニック基準を満たしているのはもちろん、と畜に関してもアニマルウェルフェアの精神に基づき、家畜にストレスを与えないように努めている。

鶏は移動式鶏舎で放牧地を循環。自由に農地にいる虫などをついばみながら、糞は土壌に落ちそのまま肥料となり窒素成分を供給する。なお、動物の糞尿や生ごみ、食品残さなどは貯蔵タンクに集められメタンガスを発生させる。これを発電の燃料として利用したり、太陽光発電などにより農場内の電力が賄われる。徹底したエネルギーの循環システムが構築されている。

農場内には直営店の「HOFMARKT」がある。敷地内以外にも、ミュンヘン市内に8店舗、オーガニックスーパーにも販売されているが、卸などを通さず直販が原則だ。

店舗の入り口入ってすぐのスペースでは、常設のファーマーズマーケットで有機野菜を販売。輸送や包装の必要もない距離にある自社農場で毎日収穫され、新鮮な野菜が販売されている。

店内奥では自農場で育った肉やハム、ソーセージなど、対面の量り売りで販売している。敷地内にはと殺場も完備していることから、食肉処理直後の温屠体製法が可能となり、ソーセージやハムなどは添加物などを使わない加工が可能だ。

まさに、育てるところから、と畜、加工、販売、さらにはレストランでの提供なども含め、命をいただくまでのすべてがここにある。

パンや卵、チーズ、ワインなどのアルコール類、調味料や加工食品など、オーガニックスーパー並みに何でもそろう。基本的には同農場内や近隣の農家の製品を販売しているが、所属しているビオ生産者団体Bioland(ビオラント)認証の他社製品も一部、取り扱っている。

敷地内の農場や施設は開放されており、開かれた農場として地域に親しまれている。ちょうど訪れた日はキリスト教の感謝祭で農場内で感謝祭が行われており、従業員の家族や近隣の農家の人たち、一般客もたくさん来ていて賑やかだった。

動物をモチーフにしたアート作品などもところどころにあり、素直な感性を持つこどもたちが、食と生命、自然とアートに直接触れる機会にもなっている。

環境や自然、食と人の暮らしとの関わりについて学ぶ体験ができる、ここHerrmannsdorfer Landwerkstätten(ヘルマンズドルファー)は、次世代を育てる「食育」の場としても重要な役割を担っていた。

この記事を書いた人

オーガニックプレス編集長 さとうあき

インターネットが急速に世に広まりつつあった2002年、長年身を置いてきたオーガニック業界からEC業界へと転身。リアル店舗時代からIT化時代の変遷、発展への過程を経験し、独自の現場的視点をもつ。2010年、業界先駆けとなる“オーガニック情報サイト”誕生を実現した。「オーガニックプレス」はその確かな目で選択された情報を集約し蓄積。信頼性の高いコンテンツを提供し続けている。

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