前編ではヴィーガン専門スーパー「Veganz」の店の様子を簡単にご紹介させていただきました。そして今回はさらに深く掘り下げて、販売動向や今後の戦略などプレス担当者へインタビューした内容をお届けします。

インタビューの場所として指定されたのはベルリンのクロイツベルク店。直営店の中で最も新しい、昨年の9月にオープンした店舗です。まるで市場を屋内に再現したような賑やかなショッピングモールの2階にVeganzは出店しています。モール内には他にもビオのパン屋や肉屋、ヴィーガンデリが、モールの外にはビオのチェーンスーパーの路面店もあります。

階段を上って右側にVeganz、左側にカフェgoodiesがあります

担当者から少し遅れるとの連絡をもらい、先に店内を見ておくことに。階段を上り、店を見た瞬間、デジャブのような感覚を覚えました。店がまるで日本のコンビニのようだったのです。ご存知の方も多いかと思いますが、ドイツに“コンビニエンスストア”というものはほぼなく、ここまで雰囲気が似ている店は初めてでした。

細長くコンパクトなつくりの店には壁に沿って冷蔵・冷凍ケースが、それに並行して常温棚が並び、商品が整然と陳列されています。日用品や書籍なども並び、生活周りのものがコンパクトにまとめられている印象です。前編でご紹介したフリードリヒスハイン店に比べると通路も広く、買い物がしやすそうです。

不思議な感じがしながら商品を見ていると息を切らしながら一人の女性が店に入ってきました。その人こそコンタクトをとっていたプレス担当者・Michele Hengstさんでした。次の予定もあってあまり時間がとれないとのことだったので、早速、気になっていた質問からぶつけてみることにしました。

―日本ではコンビニが普及しており、この店のつくりと良く似ている。意識しているのか?

そのような店があるとは知らなかった。店づくりに関してスーパーのような規模の品揃えを目指しているわけではない。店の面積で言えばもう少し広い方がいいが、品揃えに関してはこの店くらいでちょうど良いと考えている。(クロイツベルク店の売場面積は約35坪だそう。)

―商品について、よく売れるカテゴリー、ビオ商品の割合、PB(プライベートブランド)の品目数は?

よく売れるのは菓子、そして肉やチーズの代替商品。
ビオ商品は全体の85~90%。全てビオで揃えられたらもちろん良いが、代替商品のものなどビオで揃えられないものもある。「Tofurky」というシリーズはビオではないが、よく売れている。買うかどうかは最終的にお客さんが決めることだと思う。

プライベートブランドは現在50品目、全てがビオ。2017年には300品目にしたいと考えている。他社のようにあらゆるものをPBに置き換えたいというわけではなく、既存の品揃えの穴を補うものととらえている。例えばスーパーフードの商品など。ドイツ人はチョコレートが好きだが、スーパーフードを組み合わせたものが今はない。こういった隙間を埋めていきたい。商品を担当するチームが常に品揃えの改良を繰り返し、場合によってはメーカーにほしい商品をリクエストすることもある。もちろんPBを取り扱うことで大変な部分もあるが、面白いことでもある。

Tofurkyは豆腐を使ったベジタリアンミート商品をそろえるアメリカのブランド

上段に並ぶのがPBのスーパーフードパウダー。デトックス系とパワー系のミックスパウダーも。

―顧客はどういった層か?

自分たちで行ったアンケートによると、60%がヴィーガン、25%がベジタリアン、10%がどちらでもないとの結果が出た。圧倒的に女性が多い。若年層から30代までの年齢層が最も大きいグループを形成している。おそらく家族や子供を持ち、食生活への意識が高い人たちなのだと思う。次いで多いのは55歳以上のグループ。自身の健康を気遣う人が多い。ただ、大事なのはこれらの表面的な数字ではなく、顧客それぞれが店の商品に価値を見出すことだと考えている。

―若い従業員が多いようだが?

働きたいと言う人が若い人に多いだけ。事業の拡大に合わせて本部の人員は一年で30人から90人に増えた。店舗を入れると210人。ヴィーガンでない人ももちろんいる。年齢や個人の信念は大きな問題ではない。私たちはコンセプトを共有しており、従業員を含めてすべての人をVeganzの顧客にしたいと考えている。

―今後の課題とは?

資金調達は大きな課題。今後も拡張していく計画があるのでスポンサー探しが大変。ただ現状の経営は地に足をつけて手堅くやっているのでひどい心配はしていない。

―次の目標は? 

インターナショナルになること。2017年にアメリカに進出する話が進んでいる。海外展開の場合は卸業者を通して現地のスーパーに入り込める方法を選択したい。なぜなら全ての人に商品が届くようにしたいから。アジア?もちろん需要はあると考えている。

BIOFACH 2016のヴィーガン体験エリアにフードトラックで出店した際の様子

時間にすると1時間強、あっという間に時間は過ぎ、質問があればメールしてね、と言って彼女は足早に次の仕事先へと向かっていきました。どんな質問に対しても即座に、そして明確に答えを返してくれる姿に、ドイツのヴィーガン市場を牽引しているという自負と使命感のようなものを感じました。

インタビューに応じてくれたプレス担当・Michele Hengstさん (画像はVeganz提供)

https://veganz.de/en/

今回、最も興味深かったのは彼らの成長戦略です。PBは利益を得られる一方、ロットの問題がリスクとして生じます。ビオのチェーンスーパーが直営店を増やすことでその問題の解決を図る一方、Veganzが選択したのは小売他社への卸売りでした。ビオスーパーが乱立している状況で、直営店の規模拡大は賢明ではないという判断なのでしょう。新規出店にしても、PBを中心として品揃えを厳選し、効率性を重視したコンパクトなレイアウトへと店舗スタイルを進化させています。

拡大するヴィーガン需要に対して、他にはない独自のPBを開発し、顧客の要望を満たすと同時に他社との差別化をはかる。そして卸売りをすることでヴィーガン全体のすそ野を広げ、自社の収益にもつなげていく。明確なヴィジョンとそのしたたかな戦略でVeganzはさらなる成長を遂げることでしょう。

[店舗情報]
Veganz ベルリン-クロイツベルク店
https://veganz.de/en/stores/veganz-berlin-kreuzberg/

この記事を書いた人

神木桃子(こうぎももこ)

ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。

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