2月、3月の展示会シーズンを終え、来期に向けた計画を立て始める頃。ドイツで開催される「BIOFACH(以下、ビオファ)」を出展先、もしくは視察先として検討中の企業も多いかと思います。「興味はあるけどわざわざ行くまででも…」、「日本の展示会とあまり変わりがないのでは…」、そう考える方も中にはいるかもしれません。

かく言う私も同じように考えていたひとり。しかし初めてビオファを訪れたときに、その考えは覆されました。オーガニック専門とは思えないほどの規模感、趣向を凝らした展示ブース、そして会場全体を包み込む熱気と参加者たちの活気あふれる様子。何もかもが驚きの連続で、今まさにオーガニックは成長産業であることを肌で感じることができました。

日本の展示会との違いとは?

その始まりは1990年、ドイツのルートヴィヒスハーフェンの市民ホールで197社が集まって最初のビオファが開催されました。当時はまだ“ナチュラルプロダクツ”の見本市で、来場者2,500人程度の小さなイベントでした。それが回を重ねるごとに来場者を増やし、規模を拡大させ、今年で通算30回目の開催。今や3,000社以上が出展、50,000人以上が来場する世界最大級のオーガニック専門国際見本市へと成長しました。

そこまで人を集める理由とは何なのでしょう。訪問を重ねる中で見えてきたのは、ビオファはただ企業ブースが立ち並んでいるだけではないということです。会場ではたくさんのコンテンツやサービスが提供されており、商談以外の目的で訪れる人も多いのです。

ではどんな点が魅力なのか、私なりに4つの視点でまとめてみました。

1.ビオファで語る
日本の展示会は一日中たちっぱなしを覚悟していくもの、よくてパイプ椅子と机が並べられたスペースがある程度ではないでしょうか。そんなイメージを持って行った私が最初に衝撃を受けたのが、会場のいたるところでテーブルをかこみ談笑するシーンが見られたことです。

特にドイツ企業が集まるホールでは顕著で、作りこまれた展示ブースには目を見張るものがあります。趣向を凝らすだけでなく、ちゃんと商談スペースが設けられており、製品より先に人ありきの姿勢を強く感じます。

展示会は顧客であったり同業他社であったり、普段はなかなか会えない人に会えるまたとない機会。立ち話で簡単に挨拶をして詳細は後ほどメールで、では話も進みにくく、熱も冷めてしまいます。気軽にネットを介してやり取りができる時代だからこそ、顔を合わせて相手と語り、関係性を作ることで得られるものは大きいはずです。

面白い取り組みだなと感じたのは、メーカー限定のカフェラウンジです。オーガニック分野の業界誌やネットメディアがスポンサーとなっており、メーカー同士の交流会がプログラムとして提供されているのです。

(出典:ニュルンベルクメッセ)

業界を牽引するメーカーの担当者がホストとして在席し、事前申し込みをした他社メーカーの希望者がラウンジを訪問するシステムです。普段はちょっと聞きにくい質問や、自社の製品に関する相談もすることができます。展示会でメーカー同士がじっくり話し合う機会というのは珍しく、参加者にとってはかなり学びの多い場なのではないでしょうか。

2.ビオファで学ぶ
展示ホールとは別棟にある建屋では開催期間中、150以上のカンファレンスが開かれています。政治家から研究者、NGO、業界団体と、世界各国から集まる第一線の専門家たちがスピーカーとして参加。そのテーマも政策、経済、農業、環境などオーガニックに関わるあらゆる分野を網羅しています。最新のマーケットデータや研究成果など、今のオーガニック業界をとりまく状況を詳しく知ることができます。

ちなみに私が毎年聴講しているのは「ドイツオーガニックマーケット 要素と分析」というカンファレンス。ドイツのオーガニック食品のマーケットデータをどこよりも早く知ることができ、数あるカンファレンスの中でも人気のひとつです。

ドイツ語はちょっとわからない、という方でもご安心ください。国際的なテーマの場合は音声ガイダンスサービスがあるので、英語とドイツ語の2言語対応となっています。

オーガニックがこれからも伸びていくためにはどうしたらいいのか。それは業界全体が抱える課題です。いかに社会に働きかけるか、何に配慮すべきか、こうした課題に対して議論を交え、知識を共有していく場としてもビオファは機能しているのです。

3.ビオファで味わう
飲食スペースの充実もビオファならでは。オーガニック生産者団体が運営するカフェやビール生産が盛んなドイツ・バイエルン州が運営するバル、現地さながらの料理が味わえるイタリアブースのレストランとバラエティ豊富。もちろん全てオーガニックです。

一番人気は生産者団体「Bioland」のカフェ。サラダから肉料理まで10ユーロ前後でそろい、ヴィーガンメニューもあります。メニューごとにグルテン、乳製品、卵など使用食材について記号で記載されているので、特定食材を避けている人も安心して注文できるようになっています。

実際にオーガニック食材を使用したメニューを味わえることは何よりも大きな魅力です。運営的な側面から見ると、飲食スペースが多い分、来場者の滞在時間が延びるというメリットもあります。

味わうだけでなく、その世界をより奥深く知りたい人におすすめなのがワインとオリーブオイルの特設エリアです。オーガニック分野でも特にマーケットが成熟しているこの2カテゴリーは言わば別格。テイスティングブースが設置され、専門家によるセミナーも随時行われています。

各社の製品が一堂に集められている姿は圧巻の一言。

興味があれば是非参加してほしいのが「オリーブオイルアワード」です。来場者によるブラインドテイスティング投票によって今年の1本が選ばれます。来場者には投票に参加する楽しみが、出展者にはモチベーションが高まるイベントとなっています。

4.ビオファで伝える
情報発信に力を入れているのもビオファの特長です。プレス関係者への手厚さは私自身が特に身をもって体験したことです。プレス登録をすれば入場料が無料なだけでなく、専用駐車場が利用可能。そしてプレスセンターはかなりの充実度です。

パソコンなどのOA機器が完備してあるのはもちろん、ガードローブやコインロッカーも設置され、飲み物や軽食が随時提供されています。ちなみにブロガーもプレス登録ができるそうで、今の時代ならではだなと感じました。

結果として集まるメディア関係者は40ヶ国から1,000人以上。企業や団体にとってはビオファが世界に向けた格好のPRの場にもなるということです。

例えば人気ユーチューバーを招いたフォトセッションイベントや、ブロガーやジャーナリスト限定のワインテイスティングイベントなど目的に応じてPR方法も様々。

ビオファという場をうまく利用することで、自社の魅力をより効果的に発信できるのです。

その他、バーコード受付システムが導入されていたり、託児所があったりと一般的な展示会でもなかなか見ないサービスがあり、驚かされました。

受付については事前登録時に受け取るメールに添付されたバーコードを入口でスキャンするのみで、かなりストレスフリーでした。もちろん名刺提出の必要はありません。

託児所についてはさすがドイツと言うべきでしょうか。出展者、来場者ともに利用でき、事前申し込みは不要でなんと無料。3歳以上の児童が対象で、私が見学に行った際は5~6人が保育者と一緒に遊んでいました。

カギは“充実度”と“満足度”

このようにビオファでは様々なコンテンツやサービスによってイベントとしての“充実度”を高め、多くの人を引きつけているのです。内容が充実していれば、決定権を持つキーパーソンの参加も増え、商談の成果にも結びつきます。そして来場者、出展者の“満足度”につながるという好循環を生み出しているのです。

このことは運営主体であるニュルンベルクメッセが実施したアンケート結果にもよく表れています。

≪BIOFACH 2018 イベント分析≫
[来場者] ・決定権を持つ部署もしくは役職である 91%
・見本市での提案に満足した 98%

[出展者] ・訪問者のクオリティに満足した 91%
・目標とする会社とコンタクトがとれた 91%
・新規取引に結びついた 91%
(出典:ニュルンベルクメッセ)

ただ展示会としての成功を追い求めるのではなく、オーガニック業界のプラットフォームとして何が必要か、何が求められているのかを常に追い求め、進化し続けること。それこそがビオファが人を集める理由なのでしょう。2020年にはホールを2つ追加し、さらなる拡大が見込まれています。求心力を高め、人を集め、それがオーガニック業界全体の活性化にもつながっていくことでしょう。

日本でもオリンピックを控え、オーガニック分野の展示会が盛り上がりを見せるようになってきました。これからの成長がますます期待できるだけに、展示会に問われる役割は大きいように思います。業界関係者が一堂に会する場だからこそのネットワーキングづくり、知識共有など、できることはまだまだあるはずです。

この記事を書いた人

神木桃子(こうぎももこ)

ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。

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