今年もオーガニック食品の見本市「BIOFACH(ビオファ)」とナチュラルコスメの見本市「VIVANESS(ヴィヴァネス)」が南ドイツのニュルンベルクにて2017年2月15日(水)~18日(土)の日程で開催されます。この記事をご覧になっている方の中にも見本市来場や周辺地域のオーガニックスーパー視察を予定されている方がいらっしゃるのではないでしょうか。それをふまえつつ、今回はドイツのオーガニック業界における昨年のトピックスをいくつかご紹介させていただきます。

今年で28回目の開催となるBIOFACH(ビオファ)。1990年に出展数197社、来場数2,500人で始まったヨーロッパ初のナチュラルプロダクト専門の見本市は、今や世界6都市で開催されるまでに広がり、世界のオーガニックマーケットをリードする国際見本市へと成長しました。日本においては「オーガニックEXPO together with BIOFACH」として業界の情報発信、交流の場となっていることは皆さんもご存じのところでしょう。

昨年はBIOFACH(ビオファ)、VIVANESS(ヴィヴァネス)合わせて2,325社が出展、130ヶ国48,533人もの来場者が訪れました。高まる世界的なオーガニックの流れにのって、今年も多くの来場者とさらなる盛り上がりが期待されています。

※BIOFACH(ビオファ)の特長については本サイト編集長のコラムで触れていますのでこちらもぜひご覧ください。

昨年のBIOFACHの様子(公式サイトより)

■ドイツではオーガニック専門店が苦戦

では開催国ドイツにおいて足元の状況はどうなっているのでしょうか。

オーガニック情報サイト「bio-markt.info」が報じた最新の統計では、2016年第四四半期(10~12月)はオーガニック専門店の売上成長率が急激に落ち込み、通年では+1.3%にとどまる結果となりました。2015年の売上成長率+9.4%に比べると大きなマイナスとなります。

この調査はオーガニック業界誌「BioHandel(ビオハンデル)」の加盟企業を対象としたもので、形態別に区分すると、ホーフラーデン(Hofladen)と呼ばれる農家直営店、個人経営主体のオーガニックショップ、チェーンストアのオーガニックスーパーの3つがあります。

中でも個人経営主体のオーガニックショップが苦戦しており、世界的にオーガニック分野の明るいニュースが続く中で、この大きな落ち込みは見過ごせない結果となりました。

■ドラッグストアがまるでオーガニックスーパーのよう

この背景にあるのが競合他社の存在です。オーガニックが大きなトレンドとなり、さらなる顧客の取り込みをねらう小売店が戦略の一つとしてオーガニック商品の扱いを増やしているのです。ドラッグストア業界はその最たる例で、昨年はその動きが特に顕著な年となりました。

その中心にいるのがドイツ国内外で1,800店舗以上を展開するdm(ディーエム、以下dm)。オーガニックスーパー・Alnatura(アルナトゥーラ、以下Alnatura)と30年以上にわたってパートナー関係を築いてきたドラックストアで、長くAlnaturaのPBを取りそろえたオーガニック食品コーナーを展開していました。しかしdmが独自にオーガニックのPB(プライベートブランド)・「dmBio」を手掛け始めたことをきっかけにその関係は決裂。昨年から今年にかけてAlnaturaのPBからdmのPBへと商品が次々に入れ替わっています。

POPでdmオリジナルブランドであることを強調

現在、「dmBio」の商品数は350点以上。新たにNB(ナショナルブランド)のオーガニック食品も取り扱うようになり、食品コーナーを見るとまるでオーガニックスーパーのような品ぞろえ。店舗にもよりますが、女性を中心にコスメやトイレタリー商品と一緒にオーガニック食品を購入する客が目立ちます。昨年発表された決算でも業績は好調、売上の10%がオーガニック商品だということです。

当コラムで以前に紹介したヴィーガンスーパー・Veganz(ヴェガンツ)のPB商品も並ぶ

そしてAlnatura側にも新たな動きが。売上を維持するために新たなパートナーとして選んだのはまたしても大手のドラッグストア、ROSSMANN(ロスマン)とMÜLLER(ミュラー)の2社。健康や環境意識の高い消費者層へアピールしたいドラッグストア側との思惑が一致し、結果としてさらに多くのドラッグストアでAlnatura商品が並ぶことになりました。

■ディスカウントストアにもオーガニックの波が

もう一つの大きな存在がディスカウントストアです。ドイツのマーケット調査専門機関によると、オーガニック商品の20%以上がディスカウントスーパーで購入されているという調査結果もあるほど。今や多くのディスカウントストアがオーガニックのPBを販売しています。

そして昨年、世界中で10,000店もの店舗を展開するディスカウントストア最大手のAldi(アルディ、以下Aldi)も50点以上のオーガニック商品を品ぞろえに加えると発表しました。

「GutBio」の名を冠したその商品群、もちろん同店で販売されている従来商品に比べると価格は高くなりますが、オーガニックのNBに比べるとその価格は平均して7~8割ほど安くなっています。キャンペーンポスターでは「ここ(Aldi)ではオーガニック商品は贅沢ではなくスタンダード」との文言が。

Aldiのキャンペーンポスター

しかしよく見ると「GutBio」のオーガニックマークはEUオーガニック認証のみ。EUオーガニック認証よりも基準が厳しいとされるBioland(ビオラント)、Naturland(ナトゥアラント)、demeter(デメター)といった認証は全くありません。

これらの取り組みに対し、オーガニック認証団体がメディアに寄せたコメントによると「従来のものよりはオーガニックの方が良い、それはディスカウントストアにおいても同じこと。ただし客には“オーガニックは安い”という間違った認識を与えてしまう。オーガニック農家は自然や家畜へ負荷をかけない分、より高いコストをかけている。その価値をディスカウントストアは客に伝えない。」― Bioland(ビオラント)広報担当者

「目標をあえて言うならば100%オーガニック。そのためには私たちが客に対してここで買えと指示してはならない。そのためディスカウントストアでもオーガニックではないよりはオーガニックであるほうがまし。ただし“安さ第一主義”の考え方はオーガニックの考え方とは矛盾している。そのため私たちがディスカウントストアと関わることはない。」― Naturland(ナトゥアラント)広報担当者

実際にAldiの店舗を訪れてみるとボックスストアとも呼ばれるゆえんの独特な陳列、段ボールごとそのまま置かれた商品がずらりと並び、あまり綺麗な印象は受けません。一般のスーパーに比べると人員も極端に少なく、レジにしか店員がいない場合がほとんど。「GutBio」シリーズはPOPで目立つようにはしていますが、オーガニック商品には見えず、違和感はぬぐえません。

上段右にあるグリーンのロゴが付いた商品が「GutBio」シリーズ

ドラッグストアしかりディスカウントストアしかり、オーガニックがトレンドである限り、その甘い蜜に群がってくるでしょう。しかし彼らがもしオーガニックにうまみを感じなくなったら?そのときは一斉に手を引くでしょう。

業界の長期的な成長を見据えるのであれば、オーガニックである意味を理解し、消費者に伝えることこそ必要となってきます。だからこそ苦戦が続くオーガニック専門店が担う役割は大きく、今回のBIOFACH(ビオファ)&VIVANESS(ヴィヴァネス)ではこの点に関しても多くの議論が交わされることになるかと思います。

もしドイツにいらっしゃる場合は今回ご紹介したようなドラッグストアやディスカウントストアにも足を運んでみてください。オーガニックスーパー視察だけでは見えてこないドイツの消費の現場がそこにはあります。

この記事を書いた人

神木桃子(こうぎももこ)

ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。

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