オーガニック業界において年々存在感を増しているヴィーガン。“ソーセージの国”とも呼ばれるドイツにおいても例外ではなく、ヴィーガンの潮流が確実に広がっています。その牽引役のひとつとして挙げられるのがヴィーガン専門スーパーマーケットチェーンを展開する「Veganz(ヴェガンツ)」です。ヴィーガン市場を大きく変えようとしているこのVeganzに直撃取材をした内容を2回に分けてご紹介したいと思います。

ドイツのベジタリアン協会「vebu」の調査によると、ドイツにおけるヴィーガンの人口はおよそ90万人、そしてベジタリアンは780万人、意識的に肉を減らしてベジタリアンやヴィーガンの食生活を部分的に取り入れる“フレキシビリター”にいたっては4,200万人いるとされています。

その市場規模を小売側も無視できないのでしょう。一般のスーパーでも代替肉のハムやソーセージ、ソイヨーグルトなどを手軽に買えるようになってきています。家の近くのスーパー「EDEKA」でもヴィーガンマークをプライスカードやPOPで表示したうえで、他の商品と一緒に並べて販売していました。ところが最近になって、往来からあるビオコーナーの向かいに常温のヴィーガン商品を集めたヴィーガンコーナーができたのです。

EDEKAのヴィーガンコーナー。ところどころ置かれた緑のヴィーガンマークで他と差別化している。

これを仕掛けたのが前述のVeganz。

“Veganz”とはヴィーガン“vegan”と、ドイツ語で「全て」という意味の“ganz”を組み合わせた造語で、「生活のあらゆるものをヴィーガンでそろえる」というコンセプトがその名の由来です。直営店では30ヶ国270社のメーカーから仕入れた商品が食品から雑貨まで揃い、その数はおよそ4,500品目。現在、直営店は国内外合わせて10店舗のみですが、2014年から小売他社への卸販売を始めたことにより、Veganz関連商品を取り扱う店舗は1,300店にのぼると言われています。

ドイツの大手自動車メーカー・ダイムラーのトップマネージャーを務めていたJan Bredack氏がVeganzを創業したのは2011年。たった数年でこれだけの成長を遂げている、その秘密を知りたくて店舗にお邪魔してみることにしました。

※画像はVeganzホームページより許可をもらって転載

https://veganz.de/en/

今回、私が訪問した店舗はベルリンにあるフリードリヒスハイン店。直営店の中でも来店客数の多い店舗と言われていますが、外観はポップな色使いとデザインで若者向けのカフェのようです。最寄り駅が交通の要所でカフェやショップなどが立ち並ぶエリアにも近いため、人通りが多く、私が来店した土曜日の夕方5時過ぎの店内はとてもにぎわっていました。若いカップルが仲良く調味料を選んでいたり、熟年の男性が電話先の相手(おそらく奥さんでしょう)と買い物の相談をしながら慣れた手つきでお菓子をカゴに放り込んでいたり。一見、普通のスーパーとなんら変わりのない光景ですが、大きく違うのは並んでいる商品全てがヴィーガン対応だということです。

※画像はVeganzホームページより許可をもらって転載

https://veganz.de/en/

まず店に入って迎えてくれるのが大きなデザインポスター。「raw」はローフード、「zf」はシュガーフリー、「gf」はグルテンフリー、「sf」はソイ(大豆)フリー、「nf」はナッツフリー、「hf」はイーストフリーを表しています。プライスカードにこれらのマークが表示されており、どんな商品かが分かりやすくなっています。ビオスーパーでもここまで細かい区分で表示しているところは見たことはなく、ヴィーガン専門店として顧客の細かい要望に応えようという姿勢が見てとれます。

50坪ほどの店内は、ぐるりと回遊する通路に沿って棚が並び、たくさんの商品が並んでいます。まず左側に量り売りコーナーがあり、ミューズリーや豆、ローフードのドライフルーツやナッツなどを自分の好きな分量で購入することができます。その向かいには野菜や果物、そして常温のグローサリーが続きます。

グローサリーコーナーではVeganzのPBと仕入れ商品がカテゴリーごとに陳列されています。仕入れ商品の多くはビオスーパーでも見たことがある商品ですが、ヴィーガン専門ならではの品揃えだなと感じたのは砂糖コーナー。ローシュガーやブラウンシュガーに加え、キシリトールやココナッツシュガー、アガベシロップ、フルーツシュガーなど、ビオスーパーに比べると種類がかなり豊富です。穀物ミルクも同様で、複数のメーカー、様々なフレーバーと、かなりの面積を占めています。

ちなみにドイツではマクロビオティックの認知度は低いのですが、和食材自体の人気は高く、この店でもコーナー化されていました。

冷蔵コーナーで品目数が多いのは“植物性”のヨーグルトやチーズ、ハム、ソーセージなど。代替品とはいえ、パッケージングや中身の見た目、味付けの種類などは一般のスーパーで売られている“本当”の乳製品や肉加工品と同じようにつくられています。これは冷凍コーナーについても言えることで、一般的なメニュー、ピザやケバブ、ハンバーガーなどをヴィーガンレシピにアレンジした冷凍惣菜が多くそろえられています。

さらに奥へ進むと化粧品や洗剤などの日用品、お菓子や飲料が並び、レジを抜けるとカフェ「goodies」のスペースとなります。このカフェは別会社の運営ですが、パートナー企業としてVeganz店舗内に出店しているそうです。

ここで提供されているメニュー全てがもちろんヴィーガン対応。例えばカフェオレなら牛乳の代わりにソイミルクやアーモンドミルク、ディンケルミルクなど好きな植物性ミルクを選ぶことができます。サンドイッチやサラダ、スープなどの軽食から焼き菓子やローケーキなどのスイーツまで揃い、何を食べようかワクワクしてしまいます。

植物性のものだけで生活をまかなうという選択肢をした場合、食材などの調達が一番ネックになることだと思います。また、家族や友人などヴィーガンではない人と一緒に食卓を囲む場合、自分だけが違うものを食べることにストレスを感じる人もいるかもしれません。

そういった観点から見て、Veganzでは食習慣を大きく変えず、無理なく、そして楽しく生活に取り入れられるだけの十分な商品アイテムがそろえられています。厳格なルールのもと、限られた人だけが実践するというイメージは過去のもの、今はライフスタイルの選択肢のひとつとしてヴィーガンがある。それをVeganzは示していました。

[店舗情報]
Veganzベルリン-フリードリヒスハイン店
https://veganz.de/en/stores/veganz-berlin-friedrichshain/ 

直撃!ヴィーガンスーパー[後編]

この記事を書いた人

神木桃子(こうぎももこ)

ドイツ在住オーガニックライター
オーガニック専門店を運営する会社での販売・バイヤー職、地域産品のコンサルタントや販売を行う会社での営業・バイヤー職を経て、2014年秋よりドイツに移住。商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積んだエキスパートならではの視点で、ドイツのオーガニック&サステナブル情報を発信している。3歳になる娘を子育て中。

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